第20章 小夜左文字の頼み
「おきて…。」
翌朝、僅かに空が明るくなった頃…。
「おきて…。」
小夜は寝ているレンを少し揺らしながら小さく声をかける。
すると、薄らとレンの目が開き、小夜を捉えるもまた閉じてしまう。
小夜は焦れてレンの頬をぶにっと掴んだ。
「なんひぇひゅは(何ですか)。」
「兄様も治してほしい…。」
そっとレンに伝えると、彼女はまたそのまま寝てしまう。
「兄様にもあなたの清らかな気を分けてあげて…。」
小夜は頑張って伝えると、レンは小夜を見てむくりと起き上がり、彼を掴むとそのまま自身の布団に引き摺り込んだ。
小夜は驚いて固まってしまう。
「あの、兄様、を…。」
「うるさい。」
一刀両断である。
それでもなお、小夜は食い下がろうとする。
「兄様を治し…」
「うるさい。」
最後まで言うことも出来ない。
レンはまた、すやすやと寝入ってしまう。
温かい、と小夜は思う。
人間に触れられた事がなかった為、知らなかった。
人肌がこんなに心地いいものだとは。
レンからは、清流のような清らかな神気が溢れている。
落ち着く、と小夜は思う。
じっとしている間に、彼も眠くなってきてしまい、小さく欠伸をすると、うとうとと眠ってしまった。
「…ん、…ちゃん、レンちゃん。」
燭台切の声に、レンはぼんやりと目を開ける。
徐に彼を見上げると、困ったように笑っていた。
「もうすぐお昼だよ。」
その言葉に周りを見渡すと、眩しい程の光が差し込んでいた。
ふと下を見ると、緑色の小さな子が一緒に寝ている。
「だれ?」
レンは掠れた声で誰ともなく聞くと、
「小夜ちゃんだよ。一緒に寝てたんじゃないの?」
燭台切が答えた。
レンは黙って横に首を振る。
「よう、大将。起きたか?」
「おはようございます。」
薬研と五虎退が入ってきた。
その音に反応して、小夜がもぞもぞと身動ぎする。