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君に届くまで

第19章 左文字の記憶


小夜の和んだ空気を感じ、皆は一様にほっとする。

江雪は安心したような寂しいような複雑な思いだった。
小夜と死を共にしようと考えていただけに、拍子抜けする。

江雪は、必死の様子で小夜を治している人間を眺めた。
優しいわけでもなく、冷たいわけでもない。けれど不思議と毒気を抜かれてしまう。
特異な人だ、と思う。

「ありがとうございます。貴方のお陰でお小夜は助かりました。」

江雪は静かに礼を言う。
レンはきょとんとしながら江雪を見た。

「私はまだ、何もしていません。
これからが正念場です。」

レンは江雪に返しながら、ひたすら作業に没頭していく。










「これで、どうだ!」

レンは額に汗を浮かべながら最速で手入れをしていく。
乱雑にチャクラを使った為、もうすぐチャクラが切れそうだ。
だが、大きな傷は粗方塞った筈。

「治った…。痛くない…。」

小夜は呟くように答え、それを聞いたレンはバタンと仰向けにひっくり返る。

「今日無理。また明日。おやすみ…」

レンはそのまま気絶するように寝入ってしまった。
すぅすぅと寝息が聞こえてくる。

薬研、五虎退、鳴狐、燭台切はレンを覗き込み、やれやれとため息をついた。

「慌ただしい1日だったな。」

薬研は後ろに手を着き、座り込む。

「小夜ちゃん、治ってよかったですね。」

五虎退がにこにこと笑いながら小夜に話しかけた。

「…うん。…今度は、兄様も治してほしい…。」

小夜は薄ら微笑みながら答える。

「やってくれるさ、大将なら。頼んでみるといい。」

小夜は黙って頷き、江雪が優しげに微笑みながら彼の頭を撫でた。

「そうだね…。僕も頼んでみようかな。」

燭台切が薬研の言葉を受けて答える。

「お、燭台切の旦那も治してもらうのかい?」

「うん、明日にでも頼んでみるよ。」

「俺も五虎退と一緒に兄弟の手入れをお願いしてみようかな。」

薬研が言うと、五虎退は嬉しそうに頷く。

「では皆さま、明日にでも出直しますか。」

お付きの狐の言葉にそれぞれ立ち上がる。
レンを皆で布団に寝かせると、行灯の火を消し部屋を後にした。
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