第84章 新たな拠点、新撰組
「やっと来やがったか。」
門の前で待ち構えていた土方は、遠くに目的の姿を見咎めて目を据えた。
土方にとって、朝とは辰の刻まで。それ以降は昼に該当する。
そして今は、巳の刻…。
「おぉ、珍しいな。土方さん直々にお出迎えなんてさ。」
おはようさん、と藤堂は軽快に挨拶をする。
それを皮切りに、レン達は次々と「おはようございます」と挨拶をしだした。
だが、当然ながら土方の眉間には益々皺が寄るばかり。
「…お前ら、今何時だと思ってやがる。」
そういえば、とレンは左手首を見て、そこにいつもの時計が無いことに気づき、藤堂を見た。
「今って何時ですか?」
「もう巳の刻だ!朝の時刻はとうに過ぎてんだよ!!」
巳の刻とは午前九時から午前十一時頃までを指す。
この時代は二時間おきに鐘が鳴る仕組みになっており、鳴る回数で時刻を確認するのだ。
レンは、現代で習った時計表を思い出す。
鐘は先程鳴ったばかり。ということは現在は九時ちょっと過ぎということになる。
「まだ朝と言えるのでは?」
「馬鹿野郎!朝は日の出の頃が朝なんだよ!!」
「それは認識の違いですね。私は午前までを朝とします。」
「てめぇは、己の立場を弁えやがれ!!」
「ま、まぁまぁ。悪かったって、土方さん。」
「ごめんなさい。ちょっとのんびり歩き過ぎちゃったみたいで。」
熾烈な舌戦の予感に、藤堂と乱が割って入って土方を宥める。
「遅れてごめんなさい。今日からよろしくお願いします。」
堀川も少し申し訳なさそうにしながらもどこか嬉しそうに言うと、土方はひくりと眉を動かした後、短くため息をついた。
「…まぁいい、入れ。今日から働いてもらうからな。」
「はいっ。」
どこまでも満面の笑みで嬉しそうな様子の堀川に、土方はぐっと言葉を詰まらせて先を歩き出した。