第19章 左文字の記憶
「そうだよ。この子は新しい審神者だよ。あの女じゃない。…もう虐げられることはないよ。」
代わりに燭台切が答えた。
「俺も大将に治してもらったんだ。この人間に害はない。俺が保証するぜ。」
燭台切の言葉に薬研が続く。
「…わかんないじゃないですか、そんなの。私だって…」
レンは怪訝に思い、反論しようとすると、両脇からがしりと腕を掴まれた。
「「ちょっと黙ってようか。」」
凄んだ顔の燭台切と薬研に止められる。
「…ハイ。」
レンは後ろに下がって腕を抜くとしゃがみ込んだ。
「…おバカですね。」
「うるさいですよ…。」
五虎退と鳴狐はレンの頭をそっと撫でる。
「僕達はあの女の支配から解放されたんだ。だから小夜ちゃん。君の体、治してもらおう。江雪さんと一緒に生きなおそう。」
「そうだ、小夜。戻ってこい。」
すると小夜から、蛇のような骨の幻影が消え、黒い靄が霧散する。
小夜は俯いたまま、黙って頷いた。
それを見て、燭台切はレンを振り返る。
「解。」
レンは小夜に触れ、解術する。
すると元通り、首元に血が滲み、レンは慌てて飛びずさった。
「ちょっと、動かないでください。今は近づかないでください。」
レンは慌てて屋内へと逃げかえる。
「ちょ、ちょっと、レンちゃん!」
燭台切はレンの慌てように面食らう。
そしてハッとして小夜を見ると、小夜はレンの言葉にショックを受けているようだった。
「ち、違うんだ!あの子は血が苦手なだけなんだ。だから、小夜ちゃん落ち着いて!」
今にも先程の状態に戻りそうな小夜を必死で説得にかかる。
「小夜、本当だ。大将は本当に血を見るのが嫌いなだけなんだ。お前を否定したわけじゃない。な。」
薬研も必死で説得に当たる。
「ぼ、僕の時も、手当てする時、血を見て怖がっているようでした。だから、小夜ちゃんだけじゃないですよ。」
五虎退も援護する。
「あの人間は阿呆と思っておきましょう。時と場合が分からない人なんですよ!」
お付きの狐は貶してるのか援護してるのか分からないことを言う。
それを聞いて小夜はなんだか可笑しくなって、ふっと笑いが漏れる。
慕われてるんだか、貶されてるんだかわからない。人間らしくない人間だ。