第83章 時間遡行軍、現る
レンは部屋に入るなり、真っ直ぐに持ってきたポーチを手に取った。
「乱。」
レンが呼ぶと、乱はすっと自身の刀を差し出す。
それを見た藤堂は首を傾げた。
「…お前、怪我してるって言ってたよな。」
「そうですね。」
「じゃ、そっちを先にやった方が良くないか?」
「やりますよ。だから向こう向いててください。」
レンは言うが早いか袴の紐を緩め始めた。
「おわっ…!」
藤堂は慌てて後ろに向き直ると、自身の手で目元を覆う。
「お前なっ!恥じらいを持てよ!」
「そうですね、よく言われます。」
言いつつ、レンは近くにいた加州に目配せをすると、彼は一つ頷いて燭台切が持ってきた風呂敷を持ちに立つ。
「なので、ここにいる間は藤堂さんが恥じらってくださいね。」
「何で俺が恥じらわなきゃならねぇんだよ。」
「ここは私達の根城ですから。ここでは藤堂さんが客人です。」
それを聞いた藤堂は大きくため息をつく。
「…総司じゃねぇけど、お前いい根性してるのな。」
「お褒めの言葉ありがとう。」
「褒めてねぇよ!」
そのやりとりの間にも、加州は燭台切の風呂敷から玉鋼を静かに取り出して準備をし、レンは切り傷の薬と包帯を取り出した。
レンは薬を加州に渡し、加州は玉鋼と補助具を渡す。
「まだこちらを向いてはダメですよ。」
レンは、刀剣達に宥められている藤堂の視線を気にしつつ、刀を隠す様にして修復を始めた。
乱の怪我は本人の申告通り深くはなく、手を当てて割とすぐに傷が塞がっていく。
修繕をしている隣で、加州はレンの傷口を綺麗にして薬を塗る。
少しして修復を終えると、レンは乱を見る。
すると、彼はほっと肩の荷が降りた様に胸を撫で下ろした様子。そしてすぐにレンを見て、頷いた。
「…まだか?」
「ごめんね、もうちょっと。」
その向こうで、燭台切が苦笑しながら藤堂を宥める。