第83章 時間遡行軍、現る
―そこまでして留めたい訳は何だろうか。
疑問は浮かぶが、交渉の余地はないだろう。
この場で出せる答えは、”はい”か”いいえ”のどちらかだ。
レンは暫し考えるそぶりをしながら、ちらりと刀剣達を振り返る。
この案を突っぱねるには、剣を交えなければならない。
先程の戦闘で体力を消耗している彼等には武が悪いだろう。
レンや加州、燭台切はどうにか出来るかもしれないが、負傷した乱と練度の低い堀川がいる。
庇いながらは更なる負傷者が出かねない。
何より、彼等は人間には刃を向けられない…。
「分かりました。」
「レン…!」
彼女の答えに、刀剣達に動揺が走る。
「屯所に行くのはまずいよ…!」
「この状態であの人達との戦闘の方がまずいです。」
止めに入る乱をレンは制する。
「分かるでしょう?特に乱は。」
“あなたは怪我をしている。”
暗に伏せた言葉に、乱は唇を噛んだ。
「その案を呑みましょう。その代わり、私達は決して新撰組には組み入れない事を約束してください。」
「…何?」
レンの言葉に、今度は土方が眉を顰める番だった。
「当然でしょう?私達は客人としての席を要求します。」
「ただの居候になろうって?」
沖田が口を挟むと、レンはしれっとした態度で腕を組む。
「一宿一飯の恩義くらいは返しますよ。」
「穀潰しはいらないよ?」
「戦闘、という一面だけを見れば私達は穀潰しとは言えないと思いますが。」
「けど、新撰組には下らないんでしょ?」
「何かに縛られるのは嫌いでして。」
不敵に笑うレンに、沖田は鼻白む。
「いい性格してるね。」
「お互い様、ととっておきましょう。」
レンがニヤリと笑うと、沖田は少々口を引き攣らせながら歪に笑った。
それを見た全員が疲れた様に肩を落とす。