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君に届くまで

第19章 左文字の記憶



「少しは気が晴れましたか?」

小夜は唸り声を上げながらレンを睨みつける。

「人間は要らない!殺してやる!」

小夜の咆哮にも動じることなく、レンは淡々と答えていく。

「けれど、人間がいないとこの本丸は立ち行かなくなるようですよ。」

「人間は僕達を傷つけるだけだ!僕達は物じゃない!ゴミじゃない!」

「それ、あの女に言わないと分かりませんよね?尤も、それを言ったところで理解できる人間とも思えませんが。」

「なら、あの女を出せ!ズタズタに引き裂いてやる!」

「死んだようですよ。他の禍ツ神に嬲り殺されたそうです。」

「なら、お前を嬲り殺してやる!」

「嫌ですよ。ごめん被ります。」

「ふざけるな!」

「私は大真面目です。あなたはどうあっても、その怒りを収める気はありませんか。」

「この怒りは止まらない。お前を殺すまで止められない!」

小夜は苦しそうに呻くように言い放つ。

「私はそう簡単に殺せませんよ。そうなると、ここら一帯は瓦礫の山と化すでしょうね。
江雪さんを巻き込んで。」

「江雪…兄様…?」

小夜の動きが止まった。

「ええ…。彼もあなた同様大怪我を負っていますから、あなたが暴れたらまず逃げられないでしょうね。」

小夜の顔色が変わる。
どうやら小夜にとって、江雪は質になるらしい。

「あなたは江雪さんを巻き込んでまで暴れたいですか?」

「兄様を盾にする気か…!」

小夜は唸るように言い放つ。

「盾にするまでもなく、あなたが暴れたらここにいる全員が巻き込まれるんですよ。ここにいるのは江雪さんだけじゃない。燭台切、薬研、五虎退、鳴狐さんもいるんですよ。」

「え…?」

小夜はゆっくり周りを見渡す。
確かに居た。

「もう一度お聞きします。それでもまだあなたは暴れたいですか?」

今度こそ、小夜の動きが止まる。

「それとも、今は一度怒りを隅に押しやり鎮まることが出来ますか?」

「怒りは…、恨みは忘れられない…!あの女がした仕打ちを忘れることはできない!」

「そうでしょうね。でも、どんなに恨んでも死んだ人が戻ることはありません。」

「でも…!」

「何も忘れろとは言っていません。恨んでいたっていいと思いますよ。ただ、怒りは鎮めてくださいと言っているだけです。」

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