第19章 左文字の記憶
「お小夜…!」
江雪は自身の刀の柄を握りしめるが、その手は震えていた。
兄として堕ちてしまった小夜にしてやれる事は、もう刀を折る事しかない。
けれど、出来ない。どうしても見たくない。
「私は…弱い…!」
江雪が打ちひしがれていると、柄を握った手を押さえるものがあった。その先を辿ると、いつの間にか燭台切が側に来ていた。
「まだ…、まだ堕ちきってない。」
「しかし、審神者が死ねば…」
「あの子はそう簡単には死なない。タフな子なんだ。」
燭台切は江雪の言葉を遮るように自身の言葉を重ねる。
そして、苦く笑いながらレンと小夜を見守った。
「元気が有り余ってますね。」
レンは手を組み、印を準備する。
「絶対に許さない!兄様の仇!殺してやる!!」
咆哮と共に、全ての槍が砕け散った。
レンは、すかさず術を発動する。
「氷遁、氷華縛。」
レンが地面に手を付くと、忽ち一帯が氷で覆われる。小夜は避ける暇もなく、氷に足が捕まり動けなくなる。そのまま、パキパキパキ…と花が咲くように氷が小夜の体を覆っていく。
「さて、まずはおはようございます、と言った方がいいでしょうか?」
レンは氷漬けにした小夜に近づいていく。