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君に届くまで

第82章 新撰組



「繰り返しにはなりますが、昨日、あの場所にいた訳を”もう一度”話していただけますか?」

一見、物腰は柔らかだが、彼の眼鏡の奥はそうは言っていない。
射る様な探る視線と共に、もう一度、という言葉を強調するその姿勢は、どんな小さな矛盾も見逃すまいと圧をかけられている様でもある。

レンの嫌疑は何一つ晴れていない。
あのやり取りではそれも致し方ないが、それで怯む彼女でもない。

「さっきも言いましたが、偶々通りかかったという以外は理由がありません。強いて言うならば気になったからです。」

気づいているのかいないのか。
結論だけを言っても説得力に欠けるのだ。
これだけの説明では、信じてほしい、という気概が感じられない。

刀剣達は小さく息をつく。
レンらしいと言えばそうだが、この状況では少々ややこしい。
現に、土方は鋭い目で彼女を見据えている。

「…僕から説明してもいいでしょうか?」

見かねた堀川が控えめに手を挙げた。
その声に、新撰組の彼等はすっと目を向ける。

「どうぞ。」

山南は、眼鏡をくいっと直しながらにこやかに答える。

「ありがとうございます。
時系列でお話した方がいいでしょう。
まず、僕達は昨日の昼前後に京に入りました。
それから町を少し見て周り、偶々目に付いた宿に入りました。特に理由はありません。
部屋に通されてから、割とすぐにレンさんと安定さんが外へ散歩に出ました。」

「雪が降っていたのに?」

「どうしても外を見て回りたかったので。」

山南がつつくとレンがすかさず答えた。

「宿の周りに何があるのか知りたかったんだって。」

大和守が苦笑しながら答えると、レンが少し顔を顰めて彼を見据える。

「…安定。」

余計な事を言うな、と言いたいのだろうと大和守は理解しながら肩を竦める。

「別に恥ずかしい事じゃないからいいじゃん。変に隠す方が話が拗れるよ?」

大和守の言い分は尤もである。
レンもそれは分かるのか、少し不機嫌そうな顔をした後、黙って引いた。
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