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君に届くまで

第82章 新撰組



ぎくりと少し身をこわばらせたのは刀剣達。
この中で、レンだけがその違和感に気づかない。
彼女は首を傾げる。

「すみません。生まれてこの方苗字を気にされたことがないもので。そんなに変ですか?」

レンの世界では苗字はあっても無くても然程気にされなかった。
寧ろ、下の名だけ分かっていれば事は済む。

だが、それには新撰組の面々が驚いた。

「武士だったら大概苗字の方を名乗るもんだがな。ま、根無草で生きてきたってんなら話は別だが。」

原田は苦笑しながら答える。

この時代はまだ身分制度が生きている。
よって、武士以外の身分の者は大概苗字を持たない。
幕府から、帯刀を許されれば話は別ではあるが、そういった事例は僅かだろう。

それを知っている刀剣達は、冷や汗が背を伝う。
レンは、そんな刀剣達をちらりと見た後、また正面を向く。

「…私達はみんな孤児だったので、苗字は持っていません。ですが、家族ですので便宜上”氷室”という事にしてください。」

それはそれで問題である。

「君、清々しい性格してるね。」

沖田が面白そうに言う。

勝手に名を名乗るのは重罪である。
更には、孤児であるのならどうやって刀を手に入れたのか、また、誰に習ったのか、というのが大いに疑問として上がるのだが、レンがあまりにも悪びれもせず言うもので、聞いている方は呆れて言葉が出なかったのだ。
この空気の中で、堂々と半分嘘をつけるのは、さすがと言うべきか迷うところ。
とどのつまり、レンは神経が図太いと言える。

刀剣達は揃って顔を引き攣らせながら苦笑いするよりない。

「…まぁ、色々突っ込まないで貰えるとありがたいかな…。」

「そうだね…。ほんと、身元は詳しくは言えないから…。」

燭台切と加州が、視線を逸らしながらぼそぼそと言う。

「ふーん?まぁ、そう言うなら聞かないであげるよ。」

沖田はにっこりといい笑顔を向ける。

「「ど、どうも。」」

燭台切と堀川が突き刺さる視線に耐えながら言った。

「…ともあれ、本題と行きましょう。」

山南が話を変えた。
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