第82章 新撰組
「すげぇ〜。あの斎藤を蹴り飛ばして止めるたぁ。」
「やるなぁ、あの娘。」
「あぁ…。って!感心してる場合じゃないだろ!止めないと!」
永倉、原田、藤堂が好き勝手言っている間にも、レンは素早くしゃがんで袴の下から小刀を一本引き抜いた。
「へぇ…。あの子、武士の子じゃなかったんだ。」
原田の隣に立った沖田が面白そうに言う。
「らしいな。ってお前は見てるだけか?」
「万が一、一君がやられたら次は僕が出るよ。」
そう言った沖田の顔には、獲物を狙う様な妖しい笑みが浮かんでいる。
「相変わらずだな、お前は。」
「さぁ、何の事?」
呆れた様な原田の言葉に、沖田は空っとぼけてにっこり笑う。
斎藤は仲間の声に耳を傾けながらも、レンとそのまま距離を保って刀を構え直した。
彼女は気負った様子もなく、淡々と構えている。
右手には小刀を、左手には刀を。
そして、大体の人間は右利き。
つまり、彼女の主な武器はあの小さな黒い小刀という事になる。
単純に考えれば小刀と打刀では刀身の長い打刀が有利。
しかし、レンは何処から飛んでくるか分からない体術を有している。
決めるならば一撃必殺が望ましい。
幸い、レンは斎藤の射程範囲内にいる。
「ふぅぅ……。」
彼は大きく息を吐くと、刀を一度納めて重心をやや深く構えた。