第82章 新撰組
「レン…?お、おちつけ…?」
すぐ近くにいた藤堂は、底冷えする様なレンの雰囲気に冷や冷やしながら、彼女を宥める。
だが、レンはちらりと藤堂を見ただけで、すぐに正面を向く。
「なら、他に何をお聞きしたいのでしょう。」
「何故あの場にいた?本当の訳を話せ。」
「何度言われても同じ答えしか返せません。怪しい人影を見たから、と。大体、あなた方はどんな人物を追っているのですか?」
「お前に話す必要はない。言っただろ。黙って答えろ、と。」
「そうですか。どんな人物像かも分からないのに私もこれ以上は何も言えませんので、”言われた通り黙って”います。」
息つく暇も無い応酬に一同はぽかんと二人を交互に見る。
だが、当人の土方は、レンの言い様に顔を険しくさせる。
「お前…。ここを何処だと思ってやがる…!壬生浪と恐れられた新撰組の住処だぞ!?」
「ま、まぁまぁ、落ち着いて…」
「お前は黙ってろ!平助!」
止めに入ろうとした藤堂に八つ当たりの様に怒鳴り返して、土方はレンを睨み付ける。
「お前がのらりくらりと躱せるのは今の内だぞ。こっちはその気になりゃ拷問だって出来るんだからな。」
そう言った途端、場の空気がぴりっと緊張を孕む。
この気配からして、天井と襖の向こうにも人が控えている様だ。
「何度問われても同じだとこちらも言いました。私は同じ事を二度も三度も言うのは嫌いです。それしか話すことがないのならこちらもお暇させていただきます。」
レンが言い終わるか終わらないかの内に、斎藤が刀を手にしたのが目の端に映る。
それを見た彼女は、自身の刀を掴んで素早く後ろへと下がった。