第82章 新撰組
「では、何から問いましょうか。」
山南が言うと、彼等はそれぞれに顔を見合わせる。
「そもそも、平助は何でこいつを連れてこようと思ったんだ?」
永倉は平助を見遣った。
「いやだってさ…。昨日、例の男を追って俺達で西の長屋に行ったら、こいつらがこそこそと逃げようとしてたんだもん。怪しいって思うだろ?」
「そりゃ、まぁなぁ。」
平助の説明に永倉をはじめ、皆が彼女を見遣る。
「…まずはそれについての弁明を聞こうか。」
土方はそう言ってレンを険しい目つきで見据える。
「何を疑っているのかは分かりませんが、私達は昨日京に着いたばかりです。」
「じゃあ、何故あそこにいたんだ?」
レンの説明に、間髪入れずに土方が質問を投げる。
何故、と問われて彼女は答えに詰まる。
宿の周囲を見回りたかったから、と答えれば居場所を特定されてしまう。
かと言って、他にあの場にいた理由は特にない。
強いて言うなら…、
「…怪しい人影を見たから、ですかね。」
あのフードコートの男さえ見かけなければ、あの場に用はなかった。
「本当はその人影の正体を知ってるんじゃねえか?」
土方は決めつけた様に問う。
「それこそ、その根拠は何ですか?」
レンは疑われている本筋を理解する。
その男の尻尾を掴みたいが為に、少しでも繋がりのありそうな者を捕獲したかったのだと。
「早計の様にも思いますが。通りすがりを捕まえても情報なんてありませんよ?」
敢えて、ありのままを答えたレンに土方は目元を眇めた。
「早計かどうかは俺達が決める。お前はただ黙って俺達の質問に答えればいい。」
これを聞いたレンの気分が一気に悪くなる。
堀川から聞いていた人物像とはあまりにかけ離れていた。
ー主贔屓も甚だしいな。
レンは、これは尋問である、という事もすっかり忘れてしまっていた。
彼女の目は自然とひやりとする様な冷たいものになる。