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君に届くまで

第82章 新撰組



「そんな事ないよ。名乗ったから教えてあげただけ。」

にっこり笑う沖田の顔は何処となく胡散臭い。
彼もそう思ったのだろう。それはそれは大きなため息をついた。

「…俺は斎藤一だ。」

そう言うと、彼は真正面に視線を投げる。

「じゃ俺な。俺は藤堂平助だ。よろしく!」

軽快に片手を上げて挨拶をする藤堂に、レンは面食らう。
そもそも何故自分がここにいる羽目になっていると思っているのか、と問うてみたくなる。

「お前、何をよろしくすんだ?」

案の定、隣から突っ込まれている。

「っていうか、まだ互いの名前すら知らなかったのか?お前ら。」

今度はレンにもお鉢が回ってきた。
レンと藤堂は互いに見合って首を傾げる。

「忘れてた、みたいな?」

「話す暇もなかったし?」

藤堂はそう言って、ぽんっと膝を打った。

「そうだよ!こいつめちゃめちゃ足速い上にタフでさ。桂川辺りから全力でここまで走ってきたんだよ。だから話す暇なんかなかったの。」

彼はぶすっと頬を膨らませて腕を組む。
だが、それを聞いた面々は驚きに目を瞠る。

「あの距離を走ってきたんですか?それも全力で。」

山南はまじまじとレンを見る。

「はい。知らない人とのんびり歩くのが面倒だったので。」

レンがあっけらかんと言うと藤堂の隣にいた男が身を乗り出した。

「本当か!?あの距離をか!!ふふふははは!よーし!今度俺と勝負しろ!」

「女相手にか?」

その隣の男が呆れ顔で問う。

「あぁ、そうか…。こいつ女だった…。」

その男は至極残念そうにしおしおと座る。

「…ところで、名前聞いてもいいですか?」

話が進まないと踏んで、レンはその男に問いかける。

「俺か?俺は永倉新八ってんだ。」

答えると、永倉の隣の男が口を開いた。

「俺は原田左之助だ。」

原田は横の山南に視線を投げると、彼は頷いた。

「私は山南敬助といいます。」

「俺は局長の近藤勇だ。」

「…土方だ。」

流れる様に正面三人の自己紹介が終わる。

レンは一呼吸置いて、記憶を浚って、しっかりと覚え直した。

「よろしいですか?」

山南の言葉にレンは頷く。

「はい。ありがとうございます。」

さて、ここからが本題だ。

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