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君に届くまで

第82章 新撰組



「さて…。すみませんね、お嬢さん。改めて、お話を聞かせて下さい。」

山南はそう言いながら、ひたとレンを正視する。
その貫禄は、土方にも匹敵する圧だ。
レンは少し口を引き結ぶと背筋を少し伸ばす。

「その前に、名前を教えてもらえますか?」

これだけいると、誰が誰だかいまいち分からない。
誰と話したのか分からなければ、待っている彼等に情報を伝えられない。
至って当然な質問かと思われたが、どうやら彼等には違うらしい。
少し驚いた様に互いを見合わせている。

彼らは壬生浪だ。
それは浪士崩れの寄せ集めといった蔑みの意味が裏に隠れている。
その為、大概の人が彼らを人としては見ておらず、衒いなく名を聞かれる事が殆どなかった。
だが、レンはそんな事情など知る由もない。
彼女が内心首を傾げていると、沖田がこちらを向いた。

「名前が知りたいなら、まず名乗るべきじゃない?それが礼儀でしょ。」

それを聞いて、レンは納得する。
礼に欠いていたから戸惑っていたのか、と。
なので、素直に名乗ることにする。

「レンと言います。」

「名字は?」

名字、と聞かれた時に、レンは戸惑った。
自国では名字を問われた事もなければ気にされる事もなかった。
この国では、名字を名乗る事は当然らしい。
だが、名乗る名字をレンは持ち合わせていない。

「名字は…。」

ありません、と答えようとして、はたっと故郷を思い出す。
里の名前は…。

「…氷室。氷室レンです。」

咄嗟に出した名前に一抹の不安を抱える。
そんな名字はない、と返されてしまわないだろうか、と心配になったのだ。

「…ふぅん、氷室ね。僕は沖田総司だよ。」

どうやら疑われずに通ったらしい。
レンは内心胸を撫で下ろした。

沖田は名乗ると、隣の男を見る。

「はじめ君は名乗らないの?」

「総司…。面白がっていないか?」

はじめ、と呼ばれた男は眉を顰める。

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