第82章 新撰組

「へぇ…。君、珍しい顔するんだね。」

その一言に、レンはぎくりと固まった。

「まるで大切な人を見る様な、そんな顔。女の子で刀を前にしてそんな顔するのって奇特だよね。」

にっこりと笑う沖田に、レンは苦虫を噛み潰した様に顔を歪めて、内心舌打ちする。
そして、夢中になり過ぎた、と反省した。

「…ありがとうございました。とてもいい刀ですね。」

レンは刀身を鞘に戻すと、そそくさと席へ戻る。
が、今度は藤堂や近藤達がレンを凝視する。

「お、お前…。女…？」

レンの近くにいた藤堂が、恐る恐る彼女に指先を向ける。

「えぇ、まぁ…。訳あって男装してます。」


「「えぇぇ〜！！？」」


あっさり白状したレンに、藤堂とその隣にいた男が叫び声をあげ、彼女はとっさに耳を塞ぐ。

「おまっ…！お前…！何でそれを先に言わねぇんだ！」

あんな往来で先に言えるわけがないだろう、とレンは呆れた目を藤堂に向ける。

「っていうか、総司！何でお前分かったんだ！」

藤堂の隣の男は驚きながら沖田を見ると、彼は肩を竦めて見せた。

「見たら分かるじゃないですか。線も細いし。」

その言葉に、沖田の隣の男も黙って頷く。

「俺は気づかなかった…。」

「近藤さんはまぁ…そうだろうな。」

近藤の言葉に、土方は微苦笑を浮かべる。
それを近くで見ていた沖田は、半眼で土方を見た後、ふいっと視線を逸らした。

「それだけ近藤さんは、土方さんと違って純真ってことなんですよ。」

それを聞いた土方の目が見る間に吊り上がる。

「おま…」
「土方君？」

だが、山南は言葉一つで土方を押さえた。
土方は、ちっ、と盛大に舌打ちして仏頂面を浮かべる。

「沖田君も。」

「はいはい。」

沖田もやれやれと言わんばかりに一つ小さく息を吐いて居住まいを正した。

何となくだが力関係が見えてきた、とレンは密かに思う。