第82章 新撰組
「…あなたに興味はありませんが、刀は気になります。柄の飾り紐が特徴的だな、と思いまして。」
レンは言える範囲で言ってみる。
何か突っ込まれるかと思いきや、沖田は意外そうな顔をした後、横に置かれていた刀を正面に置いた。
「この刀はね、加州清光っていうんだよ。無銘の刀だけど、僕にはこれが一番しっくりくるんだ。」
いつもレンが手入れをしているその姿が目の前にあった。
彼女は近くで見たいという欲求に晒される。
「…近くで見ても?」
するりと口から出てしまった。
しまった、と思ったが、出た言葉を取り消す気にもならなかった。
駄目だろうな、と思いながら、ちらりと伺い見ると、何故か少し意地悪そうに笑う沖田がいた。
「どうぞ。」
了承の返事に皆が皆驚いて沖田を見る。
刀は武士の魂だ。
それを赤の他人に触れさせるなど、普通はしないだろう。
レンも、てっきり断られるかと思っていただけに少しの戸惑いが生まれた。
沖田の含みのある顔は気になるが、見たい欲求が勝る。
レンはすっと立ち上がると、沖田の正面に向かい合う様に座る。
近くで見れば見るほど、当たり前だが加州清光だった。
柄の赤と黒のコントラストや鞘の装飾。
彼そのものの色だ。
レンは思わず手を伸ばす。
だが、触れるか触れないかの位置で、はっと思い出してぴたりと止まった。
加州は今、沖田のものでレンのものではない。
「触っていいよ?」
その言葉に、レンは驚いて沖田を見上げると、彼は少し可笑しそうに笑いながら頷く。
「鞘から抜いても?」
ーどうせなら刀身も見てみたい。
そう思ったレンは駄目元で聞いてみる。
ここまできたらもう、恥はかき捨てるのが得策だ。
「好きに見ていいよ。」
本人から許しが出たレンは、早速手に取って鞘を抜く。
刀身は綺麗に磨かれ、煌めいていた。
心なしか生き生きとさえ見え、レンは思わず息を詰める。
とても大事にされているのが見てとれた。
彼女は愛おしそうに波紋を指先でなぞり、表に裏にと交互に返しながら視線を隅々まで走らせる。