第82章 新撰組
レンが注意深くその足音を聞いていると、足音の主は部屋に入ってきた。
「すみません、遅れましたね。どうです?何か聞き取れましたか?」
入ってくるなり、開口一番で言ったその一言に、その場はぴたりと静まり返る。
「おやおや…。もしや何一つ進んでいないのですか?」
実際には互いの名前すら知らない有様だ。
「あー…。いや、その…。」
土方は罰が悪そうに入ってきた男から視線を逸らす。
「すまんなぁ、山南君。話を聞く前に歳と総司で言い合いになってしまってな。それをきっかけに皆で雑談が始まってしまって…。」
近藤はそう言って、困った様に笑いながら後ろ頭を掻く。
何とも人の良さそうな御仁だ、とレンは思う。
近藤の隣に腰掛けた山南は、少し呆れ顔を浮かべた。
「それはいけませんねぇ。原因は何となく察しはつきますが…。土方君も毎度の様に釣られてしまうのはどうかと思いますよ?」
「わ、分かってるよ…。」
土方は益々体を縮こませる。
「沖田君も。仮にも土方君は副長なんですから、体裁の大切さは分かるでしょう?土方君が舐められればそのツケは局長である近藤さんに回るのですよ?」
「はいはい。分かってますって。」
レンは密かに驚いた。
総司と呼ばれていたこの男が、加州達の主である沖田だったのだ。
彼女の視線は自然と沖田の左側に向かう。
すると、沖田の影で隠れてはいるが、赤と黒の柄が見え隠れしている。
加州清光だった。
「…僕に興味でもあるの?それとも刀に興味がある?」
その言葉に、レンははっとして視線をずらした。
「聞いてるんだけど?」
迂闊だった、とレンは内心歯噛みする。
注視している事を相手に悟られては、逆に注目されてしまうのは必定。
隠密において、やってはいけない事の一つだ。