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君に届くまで

第19章 左文字の記憶


ふと気付くと元の場所に戻っていた。小夜の手もしっかり握っている。
江雪を見ると、そこに小夜の姿は無かった。

「江雪さん、聞きたいことがあります。」

レンは先程の出来事に確信を得る為、切り出した。

「あなたには、もう1人兄弟がいましたか?」

「はい、私には宗三左文字という兄弟がいます。」

燭台切は驚いて目を瞠る。

「小夜さんが、ここまでの怪我をしたのは、誰のせいですか?」

「…何故、聞くのですか?」

「前の審神者が、戦場に出したまま放置したからですか?」

レンは江雪の質問には答えず、先程見た光景そのままを尋ねる。
すると江雪ではなく、小夜に反応があった。
小夜の手がぴくりと動いたのだ。

もしかしたら、小夜には周りの声が聞こえているのかもしれない。

「燭台切、ここの障子全て開けてください。」

レンは燭台切をちらりと見て、指示を出す。

「…何で?」

「いいから。」

レンは小夜から目を離さず、更に続ける。

「あの女は、こうも言っていましたね。
“弱いから折れるのよ。いやね、軟弱って。審神者を守るのが貴方達の役目なのに、情けないわね。”」

江雪は驚き、目を瞠る。その顔は絶望そのものだ。

「あとは…、
“汚いわね。血だらけじゃないの。そんな生臭いもの触りたくもないわ。”
…って言われてましたね。」

小夜から黒い靄が噴き出し始める。
レンは彼の手を離し、そっと立ち上がった。

「あとは…、
“あなた達は二度と私の前に姿を見せないでちょうだい。”
でしたか。」

その言葉を聞いた途端、黒い靄は一気に広まり、さらに濃くなる。
小夜はゆっくり目を開け、レンを見る。

「やっぱり、聞こえてましたか。」

その瞳は深淵のように暗く濁り、ぞっとする程禍々しかった。

「人間は…要らないんだ。」

黒い靄から蛇を象った骨ような物が揺めき、小夜を包む。
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