第19章 左文字の記憶
「私に逆らおうなんて烏滸がましいのよ!」
女はそう言い放って、小夜から乱暴に手を離す。
「そうだ!次は小夜左文字、あなたが戦に出なさい。少しの怪我程度で帰ってくる事は許さないわ。」
その言葉に弾かれたように江雪は女を見る。
「生き残れるといいわね。」
女はそう言い捨てて、部屋から出て行った。
その時、ぐにゃりと景色が歪み、違う場面が現れた。
「どうか、お小夜をお助けください…!」
江雪は血塗れで気を失っている小夜を抱きしめながら先程の女に頭を下げる。
「いやよ、汚いわね。血だらけじゃないの。
そんな生臭いもの触りたくもないわ」
女は汚物を見るかの様に顔を顰める。
「…いいわ、出陣は外してあげる。だからあなた達は二度と私の前に姿を見せないでちょうだい。」
女はそう言い捨て、まるで気持ちの悪いものを避けるかのように去って行った。
江雪はあまりの惨さ故か、その場から動けずにいる。
ここまで見れば分かる。これは、この兄弟の記憶だ。
けれど、何故小夜はこの記憶を見せたのだろうか。
或いは、小夜が死に近い為、レンが見ることが出来ただけか。
何れにせよ、小夜は相当あの女を恨んでいると見える。
レンがつらつらと考えていると、また景色が歪む。