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君に届くまで

第82章 新撰組




一方、レンは…。

「どこまで行くんですか?」

少々長い道のりに飽き飽きしていた。
ちんたらと歩くのは性に合わなかった様だ。
レンは幾度となく屋根を見上げてはため息をつく。
屋根の上を走れたらどんなに楽だろう、とつい考えてしまうのだ。

「お前も気が短い奴だな。まだまだ歩くぞ。俺らの住処は京の真ん中ら辺だ。」

レンはそれを聞いて顔を顰めた。

「げ…。逃げればよかった。」

移動手段の事まで念頭に置いてなかったのが失敗だった、と彼女は心の中でごちる。

藤堂はそれを見て得意気に笑う。

「運が悪かったと思って諦めろ。」

鼻歌でも歌いそうな上機嫌さに、レンはついイラッとしてしまう。

「…そうですか。なら急いでもらいましょうか。私も暇ではありませんので。」

言うが早いか走り出したから堪らない。

「どわっ!おい、こらっ!」

藤堂は慌てて彼女の手を握りなおし、引きずられる様に走るしかなかった。



「こ、ここ、だ…。」

藤堂は、息も絶え絶えに屯所である八木邸の門を潜る。
かつて、こんなに全速力で長い距離を走った事があるだろうか、と気力を折られた様に過去を記憶を浚う。

「へぇ…。まるでお屋敷みたいな所なんですね。」

対して、レンは涼しい顔できょろきょろと辺りを見回しながらしっかりした足取りで藤堂の後に続く。

「…おまえ、なんで…そんなに、ぴんぴんしてんだよぉ〜…!」

体力をごっそり削られた藤堂は、重い体をどうにか動かして歩くしかなく、汗一つ流していないレンを若干恨めしく思う。
普段鍛えていると自負していただけに、この体力差は落胆を拭えない。

「…何でと言われても、能力の違いとしか…。それにまさか、そこまで疲弊するとは思いませんでしたし。」

何の含みもなく出た言葉だった。
レンにしたら、忍と忍ではない者の違いでしかない。
だが、藤堂の矜持をへし折るには十分だった。

「てめっ…!おぼえてろよ…!」

藤堂は半泣きでレンに掴みかかるが、簡単にひょいっと逃げられてしまう。
彼は、明日から真面目に稽古をしよう、と固く心に誓ったのだった。

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