第81章 幕末へ
「あれ藤堂さんでしょ。怒り心頭だったから、当分無理だよ。そういえばさっきの影分身はどうなったの?」
「あぁ…、どうなったんでしょうね。」
レンはのらりくらりと答える。
先程、裏口に向かう途中で影分身を出してそのまま向かわせ、本体であるレン達は空き部屋に身を隠したのだ。
「どうなったんでしょう、って…。大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないですか?いざとなったら消えればいい話ですからね。…そろそろ動きがあってもいいんですけど…。」
その時、爆竹の破裂音の様な音が外で数発鳴り響く。
「あ、戻りました。囲まれて逃げ場を失ったんで、煙玉で煙幕張って術を解きました。」
どうやら影分身が消えて情報が入った様だ。
何でもない事のように言うレンだが…。
「…それ大丈夫って言えるのかな。」
大和守は初めてレンの技を見た時のことを思い出す。
あの時は彼女が妖術使いの様に思えてならなかった。
他の人も同じ様に思うのではないか、と大和守は思い、語り草になったりしないだろうか、と密かに気を揉んだ。
そう時を置かずして、部屋の外に動きが出る。
「おい、下人が消えたらしいぞ。」
「消えたって、逃げられたのか?」
「分からん。突然消えたって話だ。」
「どういう事だ?」
「俺が知るわけないだろ。とにかく一度合流するぞ。」
そんな会話が聞こえ、バタバタと慌ただしく走る音が遠ざかる。
「行ったかな。」
「多分。」
レンは襖を少し開けて外の様子を伺う。
「大丈夫みたいですね。」
室内は静まり返っており、廊下にも影はない。
「出るなら今の内じゃない?」
「戻りますか。」
二人はこっそり裏口に向かい、そっと宿を抜け出した。