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君に届くまで

第81章 幕末へ




レンは大和守の手を引いて逃げつつ、ふらふらと自分達を追う様に走り始めた藤堂を見て驚いた。

ー幻術が効いていないのか…!?

彼女は十字路を急いで横切り大通りに出ると、宿とは反対方向へと走る。

「レン!宿はこっち!」

大和守は驚きながらレンを止めようとするが、彼女は首を横に振る。

「ダメです!今行ったら居場所を教えるものじゃないですか!」

全滅だけは避けなければならない。
今の彼女の頭にはその考えが占めている。

ーどこか、どこか、隠れる場所を…!

レンは時々後ろを確認しつつ、駆け込める場所を探す。
人通りが多いせいで、思う様に走れないのが彼女の焦りを加速させる。

「待て!こらぁ!!」

ふらつく事なく真っ直ぐに走り始めている藤堂は、既にレン達を射程内に捉えている。
屋根の上を走らない限り、追いつかれるのは時間の問題だ。
レンは意を決して入口が開いている宿らしき店へ駆け込むと、急いで戸口を閉めてつっかえ棒をする。

「な、なんや、あんたら。」

店の者だろう年配の男が驚いた様に板の間に立っていた。
客らしき人もちらほらと見え、同じ様に手を止めてこちらを見ている。

「おい!開けろ!」

ドンドン!と戸を拳で叩く音がして、レンは舌打ちする。

「ご主人、お願いがあります。私達を少しの間匿ってください。」

レンは後ろを振り向いて、板の間に立っている男に頼み込む。
質の良さそうさ服装からして、旅の者ではないだろう。
だとすれば店の者。それも取り仕切る側に近い立ち位置だろう、とレンは当たりをつける。

「事情はよう分からんが、うちで揉め事は勘弁しとぉくれやす。」

ーやはり、この男が主人か。

レンは返事を聞かず、草履を脱ぎ、急いで広間に上がる。

「安定!」

「え!?あ、うん!」

唖然として見ている大和守を促し、家屋の裏口目指して走り出す。

「あ、ちょっと!困んで!」
「早く開けろ!!」

男の困りきった声に重なる様に、表戸がドンドン!と叩かれて怒鳴り声が響く。
レン達はそれを後ろで聞きながら広間を後にした。

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