第81章 幕末へ
二人はそろりそろりと忍足で路地を戻って行く。
辺りを見回して誰もいない事を確認すると、急いで路地を抜けて裏通りへ出た。
レンと大和守は何度か後ろを確認しつつ、誰もいない事を確認すると、ほっと一息つく。
「見つかるところだった…。」
「危なかったですね。」
大和守は胸を撫で下ろしつつ呟き、レンも続いて同意する。
「も〜。変な事に首を突っ込むからだよ。」
「え、不可抗力では?」
偵察にはケガはつきものである、というのがレンの考えだ。
「怪しい奴がいたからって、無防備に追うからだよ。」
しかし、大和守は違うらしい。
「僕達はこの時代の人とあまり関わったらいけないんだから。」
「それは…すみませんでした?」
大和守の小言に生返事で返すレンを、彼は半眼で見て小さくため息をつく。
「まったく…。早いとこ戻ろう。」
「そうですね。」
大和守はそう言って歩き出し、レンもそれに倣って歩き出す。
その時、
「どこへ戻るのかな、お二人さん。」
背後から知らない声がかかった。
二人が身を強ばらせながらゆっくりと振り向くと、そこには少し背の低い十代後半くらいの青年がにこにこと笑いながら立っていた。
もちろん、浅葱色の羽織を着て、腰にはしっかり刀が差してある。
「よぉ!ちょっと俺らと一緒に来てくれるか?」
伺いを立てている割に逆らう事を許さないその響きに、大和守は顔を引き攣らせ、レンは嫌そうに顔を顰めた。
「藤堂さん。こいつらは?」
「例の奴らですか?」
そうこうしているうちに、一人、二人と同じ羽織の者が集まってくる。
ー面倒な事になってきた…。
レンは密かに印を組んだ。
「水泡幻華。」
唱えると同時に、新撰組の周りに小さなしゃぼん玉の様なものが無数に現れた。