第81章 幕末へ
その時、後ろからも誰かが走って来る足音が聞こえてきた。
先程の宿の裏側に当たる道からだ。
「誰か来るよ…!」
「しっ…!」
焦りつつ言い募る大和守に、レンは人差し指を口の前に立てながら小さく屈んで様子を窺う。
「安定も小さくなって…!」
「何でそんな冷静でいられるの…!?」
大和守はあたふたと、大きな樽の物陰に身を隠した。
二人で身を潜めていると、ニ、三人の足音は止まる事なく裏通りを走り去って行く。
ほっと息をついた瞬間、程近い所で、
「御用改である!」
大声が上がった。
同時にバタン!と戸が乱暴に開けられる音がする。
二人は同時に驚いて肩を跳ねさせ、大和守は既のところで悲鳴を飲み込んだ。
「な、なんや!あんたら!」
「御用改だ!逆らえば容赦はしない!」
二人の怒鳴り声にも似た会話が聞こえ、どたどた、がさがさ、という音も聞こえてくる。
「さっきの裏通りへ戻りましょう。ここを離れた方がいい。」
レンの言葉に大和守は青い顔で小刻みに何度も頷いた。