第81章 幕末へ
「一つ気になることがあるのですが。」
レンはそう切り出しながら、すれ違う見ず知らずの人を目で追う。
その人は、レン達を見るや、あからさまに視線を逸らし、俯き気味に面を伏せて去って行く。
「どうして会う人会う人、私達を避けるのでしょう?」
路地裏に入った途端に表通りとは一転して、すれ違う人は皆が皆、同じ様な反応をするのだ。
気分もあまり良くはないが、何より悪目立ちしている様で落ち着かない。
大和守は、少しそわそわとするレンを見ながらくすりと笑う。
「この時期の京は仕方ないかな。治安が不安定なんだよ。町人にとって侍は脅威なのかもね。武士崩れの浪人がかなり悪さをしてたみたいだから。尊王攘夷の志士を名乗って、それを笠に着て金品を脅し取ったり、傍若無人に振る舞ったり。」
「そんな事をして何故許されるのですか?」
国が取り締まったりはしないのだろうか、とレンは疑問に思う。
「難しい質問なんだよね。」
大和守は困った様に笑いながらレンを見る。
「今の頃って多分、鎖国が終わって間もない頃だろうし。元々京の人って江戸幕府をあんまりよく思ってないし。で、国の威信が弱いんだよ。だから、尊王攘夷を名乗られると横暴にも目を瞑る人が沢山いたんだと思う。」
成程、とレンは納得するが、あと一つ疑問が残る。
「さっきから出てくる尊王攘夷って何ですか?」
これが分からなければ根本が見えない。
「尊王攘夷はね、天皇中心の政治をしましょう、外国を追い払いましょう、って意味。過激派の長州勢がこの理論なんだよね。だから、尊王攘夷志士を名乗ったら大体が長州なの。そのせいで、町の人は役所に突き出せないんだよね。」
「長州だと何で突き出せないんですか?」
レンの素朴な疑問に、大和守も首を捻る。
「そういえば何でなんだろう。」
彼も知らないらしい。