第81章 幕末へ
通りを西側へ横切ると、そこは横にずらりと長屋が建ち並んでいた。
道に沿うように家屋が建てられている様で、道向こう二本にも同じ様な景色が広がっている。
店は無く、長屋は全て通りに背を向けるように建てられていて、人は殆ど居らず閑散としている。
「これぞ路地裏って感じだね。」
大和守とレンは裏通りにぽつんと佇んで周りを見渡した。
「どっち行く?」
大和守がレンに尋ねると、彼女は宿がある方向を指さした。
「こっち行きましょう。」
「了解。」
二人は揃って歩き出した。
ちらちらと視界に雪が舞う中、二人の白い息が前を漂いながら消えていく。
冷たい風は緩やかに二人の背中を押しながら通り過ぎていった。
「寒いね…。」
大和守は悴む手を口元に当てながら話しかける。
「そうですね。」
レンは、ちらりと大和守を見上げた。
寒さのせいか、彼の耳や頬が赤くなっている。
きっと自分も似たり寄ったりになっているのだろう、とレンは思う。
冷え切った手が思う様に動かせなくなってきていた。
思った以上に京の冬は寒さが堪える。
これでは本末転倒になりそうだ。
「宿の裏側に着いたら、もう部屋へ戻りましょうか。」
レンが通り行く景色を眺めながら言うと、大和守は意外そうに目を見開いて彼女を窺い見た。
「いいの?」
大和守が足を止めると、レンも一歩遅れて歩みを止めた。
レンの事だから、とことん調べたいだろうと思っての言葉だった。
彼女もそれを悟って微苦笑を浮かべて大和守を見上げる。
「昔から宿をとったらその周囲を調べるのが私の日課だったので。問題ないと分かってますし、自分の気持ちの問題ですから。」
「そう?」
大和守はレンの目をじっと見て、彼女に気負いがない事を悟り、ふんわりと笑う。
「じゃ、あと宿の周りだけ見たら戻ろうか。」
「はい。」
大和守とレンは少し微笑み合い、また前を向いて歩き出した。