第81章 幕末へ
「ここが兄さんらの部屋や。好きに使こうて。」
案内されたのは二階の角部屋だった。
表に面した東側の部屋で、悪くない広さだ。
「ご飯は降りてくれば一階で出すさかいに。」
「よろしくお願いします。」
「えぇて。なんかあったら言うてや。」
男はそう言い残して、襖を閉めて去っていく。
「…何か随分と親切だったね。最初は胡散臭い目で見てたのに。」
乱は男が去って行った襖を見遣る。
「それより、おつりは良かったの?」
大和守の言葉に、レンは、はい、と頷いた。
「私は、見知らぬ土地に来て最初に泊まる宿にはケチらない事にしてるんです。」
「何で?」
大和守は理由が分からず首を傾げた。
「店は、客が気前が良いか悪いかで対応を変える事が多いです。だから多めに出す事で親切を買うんです。」
「せ、世知辛い…。」
乱は世の厳しさに染み入った。
これが地獄の沙汰も金次第、というやつではないだろうか。
「それにその方が為人も見抜きやすいですしね。」
「「…旅慣れてるぅ。」」
加州と大和守は声を揃えて言う。
全く考えも及ばなかった。
「旅人だったってのも伊達じゃないね。」
まさか、こんな所でレンの経験が役に立つとは、と燭台切は苦笑した。