第81章 幕末へ
そう歩かない内に、”みちのく旅籠”と書かれた看板を見つけ、皆で顔を見合わせ誰とはなしに中へ入る流れとなった。
「いらっしゃい!」
中へ足を踏み入れると、中年の男の声がかかる。
食事処の様なその場所には、机が十程並べられ、人が疎に座って話しながら食事を楽しんでいる。
“旅籠”と書かれていたのだから宿をしている筈だが…。
レンはカウンターの様な受付の机に男が座っているのを見つけると、そちらに足を向けた。
おそらく、一行が入った時に声をかけた男なのだろう。
「すみません。泊まりたいのですが。」
話しかけると、男はちらりと一行全員を興味無さ気に見回し、端に置いてあった帳面を広げて筆を持った。
刀剣達は、その冷たい視線に内心眉を顰める。
「はいよ。何人?」
「六人でお願いします。」
「六人ね。うちは一泊110文やで。」
「これで。二泊でお願いします。」
そう言って差し出したのは朱銀六枚。
朱銀一枚で250文である。
「銀六枚ね。おつりは…」
「取っておいてください。」
レンがにっこり笑ってそう言うと、男は嬉しそうに少し微笑んだ。
一方、刀剣達は内心驚きながらレンを見る。
七海から幾ら預かったのかは知らないが、資金は限られているだろう。例え一泊分とて馬鹿には出来ない。
「おおきに。何や太っ腹やな。兄さんら江戸のもんかいな。」
「はい。今日こちらに着いたばかりです。」
レンは”江戸”を知らないが、話を適当に合わせる。