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君に届くまで

第81章 幕末へ




「これが京都、ですか。」

レンは眼下に広がる碁盤の目の様な街並みに足を止めた。
そこには白く染まりつつある家々が、所狭しと綺麗に立ち並んでいる。

「そうね。ここが沖田君がいる所。」

加州はレンの隣に立つと、彼女と共に街を見下ろす。

その胸中は複雑なものだった。
沖田に、前の主に会える喜びと戸惑い。
自分は彼を前にしたらどんな風に思うだろう、という不安。

ー会いたい。けれど会いたくない。

レンは確かに大事だ。
だが、自分を見初めてくれたのは沖田総司である。
どちらもどちらなりに思い入れがあるものだ。


レンは、少し目を眇め口元を引き結ぶ加州を見て、思うところがあった。

沖田総司。
加州清光の持ち主である新撰組随一の剣士。
きっと加州を大事にしていたのだろう、とレンは思う。
そうでなければ、期待と不安が入り混じる様な、そんな顔はしないだろうから。
今から相対するであろうその人に会ったら、彼はどんな反応をするのだろう。
これ幸いと沖田の元へと行ってしまうのだろうか。
そう考えて、嫌だな、と何となく思ってしまった。
自分の元から離れてしまう事が寂しい。

そこまで考えが至ったところで、レンは自嘲する。
まるで親に縋る子供の様だ、と。

「…こういうのを依存、って言うのかも。」

レンはボソリと呟いた。

「え?」

隣にいた加州でも聞き取れない程の小さな呟き。

「何でもありません。陽が落ちる前に急いで宿を探しましょう。」

レンは纏わりつく感情を振り払うかの様に歩き出した。

「どうしたの?レン。」

大和守は不思議そうに加州に問うが、加州とてよく分からない。

「さぁ?何だろね。」

加州は小首を少し傾げて見せてから、レンに追いつく様に早足で歩き出した。
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