第80章 五稜郭にて
「どれを聞かせたいんですか?」
「全部ですよ!!あなたが一番心配なんですよ!何をするか分からない分、防ぎようがないんですから。大体あなたは自分の立場を分かっていない!あなたは審神者ですよ!?」
「はぁ…。」
また始まった、とレンは面倒そうに長谷部を見返すが、彼は気づいているのかいないのか、更に言葉を続けていく。
「審神者とは本来本丸で指揮を取るものなんです!時渡をするなど前代未聞なんですよ!だからこそ…」
ふと、不自然に長谷部が止まった。
と、思ったらレンは近くにいた七海の元へ駆けていく。
「七海さん、さっき準備は出来たって聞こえたんですが。」
「え、えぇ。出来たわ。あなた長谷部に何したの?」
「軽い幻術をかけました。」
「はい!?」
七海は驚いてレンと長谷部を交互に見比べた。
「10分程は夢の中だと思います。今の内に送ってください。」
「え、ちょっと、害はないの!?」
「ありませんよ。起きてから少しぼーっとするくらいです。」
それを聞いた七海は大きくため息をついて額に手を当てた。
「あなたって人は…。」
「お小言は御免です。やると決めたからにはやるしかないんです。って事でお願いします。」
「…分かったわ。」
長谷部もくどかったな、と七海は思い直し、転移装置を起動しながら、レン達に転移装置の方陣の中へ入る様促した。
「分かってると思うけど、時代は1864年の池田屋事件前よ。」
「承知しています。」
「長谷部じゃないけど無理は禁物よ。引き返せるなら引き返すのも手よ。」
「…分かりました。」
しかし、引き返す事は誰かが、或いは新撰組の刀全てが死ぬ事を意味する。
きっと引き返す事だけはしないだろうな、とレンは思う。
七海もレンの態度などからその意思を悟り、何とも言えぬ顔で彼女を見返した。