第19章 左文字の記憶
「はい、口直しです。今度は普通に受け取ってくださいね。」
レンは薬研の手を掴むと、先程同様チャクラを流す。今度は反発は無かった。
薬研を見ると、彼は何処となく恥ずかしそうな嬉しそうな顔をしている。
レンは不思議そうに薬研を眺めた。
「…見るなよ。今ので感覚は掴めただろ?」
薬研はぶっきらぼうにレンに言いながら彼女の手を離した。
「そうですね。小夜さんは反発しているわけではなさそうです。」
皆は一様にほっとした様子を見せる。
「なので、このままだと予想以上に玉鋼を使うかもしれません。念の為、遠征をお願いできますか?」
「そういうことなら、任しとけ。」
「「はい!」」
薬研達は力強く答えると、影分身と遠征へ出て行った。
遠征をこなしながら薬研は先程のことを思い出していた。
温かくはないが、清廉で清らかな気。冬の朝を連想させるような神気だ。
前の審神者のような刺々しい気とはまるで違う。
人間が変わるだけでこうも変わるものか、と思う。
レンの気に含まれる”折れないように”という願いのような想いのような神気に包まれるのは、とても気分がいい。
「薬研兄さん、いいですね。」
五虎退はちょっぴり羨ましそうに薬研に言う。
「な、何がだ?」
「神気ですよ。顔がニヤけてますよ。」
お付きの狐が指摘する。
薬研は少しだけ自身の顔が赤くなるのを自覚し、バツが悪そうに後ろ頭を掻いた。
「し、仕方ないだろ。大将が試したいって言ったんだから。」
「ははっ。僕も神気が貰えるなら試せばよかったな。」
少し揶揄うように言うと、薬研は、現金な奴め、と言って五虎退を軽く小突いた。
「さて、もう少しだけ頑張りましょうか。あの人が待っていますよ。」
お付きの狐の言葉に、薬研と五虎退は返事を返しながら敵陣へと駆けて行った。