第80章 五稜郭にて
「聞いていると思うけど、今から刀に細工をするからここに置いてちょうだい。」
そう言って毛布の様な厚布が掛けられた大きな机を指さす。
部屋の三分の一は占められているだろうそれは、あるだけで少し圧迫感を感じる。
今から刀に目色や毛色を変える呪を施し、レンと同じバーコードチップを埋め込むのだ。
バーコードチップは、その者の現在地や時代、時間を割り出すのに使われる。
目的は、不正防止、及び命綱といったところだろう。
加州達は、腰から刀を抜いて次々に机に置いていく。
「さてと、始めるわよ。」
七海は、手前にあった乱の刀から作業に取り掛かった。
ものの数分で術は終わり、乱の色が見る間に日本人と遜色ない色に変化する。
「なんか、色が変わるって変な感じ。」
乱は自身の髪を摘み、その色をまじまじと見る。
「目の色も茶色になってるよ。」
「すごいね。普通にいそうな感じだよね。」
燭台切と大和守も乱を覗き込みながら言う。
同様に、七海は堀川、燭台切、大和守、加州と呪を施していく。
全て終わったところで彼等を見回した。
「違和感ある人はいる?」
七海の問いに、加州は鏡に映る自分を見ながら若干不満げに顔を顰めた。
「いつもと色が違って違和感ありまくりだよ。」
七海はそれを聞いてやれやれと腰に手を当てた。
「それはそうよ。周囲に馴染めるように変えたのだもの。」
七海の言っていることはよく分かる。
だが、お洒落好きな加州にとって、色を飾れないのは不満があるのだ。
「わかってるけどさ〜。」
口を尖らせる加州を見て、大和守は少し笑う。
「無事に終わったらすぐに戻してあげるわ。だから頑張ってらっしゃいな。」
「レンちゃんを守る為だと思ってさ。がんばろう。」
七海に続き、燭台切も加州を励ます。
「そうそう。今回はお転婆のレンがいるんだから。気は抜けないよ?」
「主を守らなきゃ、ですね。」
乱と堀川も戯けた口調で励ました。
加州は皆に励まされ、笑顔を浮かべる。
「だね。何するか分かんない分、気を引き締めてかからないと。」
「レンにカッコいいとこ見せなきゃ。」
そう言って加州の肩に手を置き微笑む大和守を、彼は柔らかに見返して頷いた。