第80章 五稜郭にて
刀剣が戻らないかもしれない。
そんな悪条件で名乗り出る者なんているんだろうか。
レンはそう思いながら、他人事の様に周りをこそっと見回す。
案の定、皆が皆、視線を逸らすか俯くかして、誰も手を挙げない。
レンは、七海の反応を見ようとそちらを向くと、彼女はこの反応を予想していたかの様に、難しい顔をしながら大きくため息をついた。
「…現状はとても厳しいです。誰かが行かなければ解決することは出来ません。そうなれば、明日はあなたの本丸で刀剣の誰かが消えるかもしれない。そういう事もあり得るという事を、どうか心に留めておいてください。」
七海はそう言うと、司会者に視線を送る。
司会者は、心得たかの様に一つ頷くと、七海と席を代わった。
「もし、気が変わり、協力をしてくださる方がいらっしゃいましたら、どうか政府までご連絡をお願い致します。
説明会は以上となります。各自解散してください。」
司会者の言葉に、会場にはまた喧騒が戻り、審神者達はがたがたと席を立っていく。
レンも燭台切と視線を交わし互いに頷くと、席を立ち出入り口へと歩き出した。
あと少しで、会場を出るという所で、
「待って。」
後ろから声がかかった。
声からして七海だとすぐに理解し振り返ると、真剣な眼差しでレンを正視する七海と視線がかち合った。
斜め後ろには、難しい顔をした長谷部も控えている。
そんな七海を見た二人は、互いの顔を見合わせてまた向き直る。
「ちょっと話があるの。」
七海はそう言うと、踵を返してレンが座っていた席の方へと歩いていく。
「これは、もしかして…。」
燭台切は、嫌な予感を抱える。
「まぁ、もしかしなくてもそういう事でしょうね。」
レンは少々げんなりしながら会場の中へと戻っていった。