第78章 番外編1
夜も更けた頃、やっとお開きとなり、レンは漸く解放される。
ーつかれた…。
頭の中には最早その言葉しか浮かばない。
ーお風呂に入ってさっさと寝よう。
それだけを考えながら自室へと足を動かす。
共同部屋の前を通りかかった時、鶴丸が縁側で外を眺めているのを見つける。
「…どうしたんですか?」
レンが声をかけると、鶴丸は笑った。
「ちょっとな、酔い覚ましだ。」
「そんな飲んでましたっけ?」
レンは、そう言って鶴丸の隣に座った。
鶴丸の周りにあった空の徳利は、いつもより少なかった気がしたのだが。
彼の横顔を見ても、酔っている様にはあまり見えない。
ー何かあったのだろうか…?
レンの視線に気がついた様に、鶴丸がふと彼女の方を向く。
「何だ?」
こてん、と首を傾げて不思議そうに見る彼の瞳には、憂いなどの負の感じは見受けられない。
「…いや、何でも。」
まぁ、何かあればその内言うだろう、と思い直し、レンは視線を空へと向ける。
それに倣う様に鶴丸も、視線を空へと戻した。
今日は澄み渡る星空で、降ってくるような輝きがちらちらと空を彩っている。
「今日は星が綺麗だな…。」
「そうですね…。」
沈黙が二人を優しく包む。
レンの中にリヨクとの日々が思い出される。
寒空の下、野宿をすることも少なくはなかった。
そんな時、見上げた先は天井ではなく、こんな風に降ってきそうな満天の星空だった。
リヨクと再会したことで、こんな風に何でもない穏やかな日々も少しずつ思い出すことが出来る様になった。
レンには、それがとても嬉しい。