第78章 番外編1
「あぁ、一番だ。だから、あの日も鶴に頼んであった。禍ツ神となった時にはお主が折ってくれ、と。その言葉通り、鶴は約束を果たしてくれた。」
レンは目を瞠る。
鶴丸も自身と同じ経験をしていたとは思わなかった。
三日月はレンの顔を見て苦笑する。
「鶴には酷な事をしたと思っている。だからこそ、あやつには喜びで満ちたこれからを過ごしてもらいたいと願っておる。」
レンは、すっと視線を手元の酒に移す。
三日月がこの話をしたのは、レンに何かを期待しての事の様な気がしてならなかった。
「…私は…。私にはきっと、鶴さんの傷は癒せないと思います。」
レンは及び腰になる。
彼女もまた、傷を抱えたままそれを持て余している。
完全に癒やされた訳ではない。
大きかった傷が少し小さくなっただけの事。
触れればまだじくじくと痛むのだ。
三日月は、レンの表情から期待を背負わせた事を悟り、微苦笑を浮かべた。
「あぁ、そうではない。そなたにはそなたの道がある。だから、その道を思う様に進めば良い。ただ…。」
「ただ?」
レンが聞き返すと、三日月は困った様に笑った。
「いや、レンはそのままで。ありのまま、今まで様に俺達と過ごしてくれ。きっと、それが一番幸せなのだろう。」
レンは、ふわんとした物言いに、思わず怪訝な顔をする。
「つまりどう言う事でしょう?」
「つまりは、これからもよろしく、ということだな。」
「…はあ。」
レンは、訳が分からない、と思いつつ曖昧な返事を返し、三日月はそんな彼女を見て、楽しそうに笑った。