第78章 番外編1
「ならば、少し話をしよう。」
「話?」
レンが問い返すと、三日月は小さく頷く。
「なに、昔の思い出話だ。」
穏やかに笑う三日月を見つつ、どうしたんだろう、とレンは首を傾げる。
「さて、何から話そうか…。」
三日月は、ふむ、と少し考えてから、再び顔を上げる。
「俺が初代によって顕現された事は知ってるな?」
「はい。」
レンが頷くのを見て、三日月は更に話していく。
「初代はとても淑やかなお人でな。優しく温かかった。よく現代にも連れて行ってくれたものだ。」
「え、現代って刀剣が行っていいものなんですか?」
「人のいない所ならな。穴場があったのだ。
春には桜が咲き乱れ、秋には秋桜が一面に広がり、冬には雪が白一色に覆い尽くす。」
「へぇ…。」
「こそっと行ってはこそっと帰ってくる、そんな程度だ。しかし、見事な景色だった。特に一面の秋桜は圧巻だった。鶴も好きでな。秋になるとよく見に行ったものさ。」
レンは黙ったまま想像する。
見渡す限りの秋桜はさぞや綺麗な事だろう。
「俺の思い出は鶴との事ばかりでな。戦場にもよく一緒に出されたものさ。共に戦い、共に生き残ってきた。厳しい死線も掻い潜ってきた。」
三日月は、昔出た数々の戦場を思い出す。
時に三日月の動きに鶴丸が合わせ、時に鶴丸の動きに三日月が合わせ…。そうやって背中合わせで戦ってきた。
「鶴と戦うのが俺にとっては一番しっくりと馴染む。一番気の許せる仲間かもしれん。」
「一番…。」
レンはリヨクを思う。
二人もいつも一緒だった。