第76章 おわりのおわり
「お、俺が分かるか!?自分の名前覚えてるか!?」
叫びながら、鶴丸はレンの肩を揺さぶる。
彼女はあまりの唐突な行動に、されるがままになってしまう。
「1+1は!?」
と、乱がずいっと身を乗り出した。
「どうしよう!?打ちどころ悪かったのかなぁ!?」
「いや、頭は打ってはないと思うぞ。」
加州が半狂乱に隣の薬研の肩を揺さぶるが、彼はそれに対して冷静に答えていた。
薬研の隣にいた太鼓鐘は、閃いたとばかりに手を打つ。
「美味しいお菓子とか食べたら何か思い出すかも!?」
「いや、それよりも光忠さんのご飯食べれば何か思い出すかも!」
厚が言い出すと、そうだよ、そうしよう、などと彼等は騒ぎ出す。
それを見たレンは静かに呆れ返った。
ー人を何だと思っているのか、この人達は…。
「…みんなの中で私はどういう立ち位置なんですかね?」
レンは呆れ顔を隠しもしないで彼等を見遣る。
ー何だか夢にしては違和感があるような…。
レンが不思議に思っていると、彼等は一様に彼女をまじまじと見る。
今度は何なんだとばかりに、レンが少し後退ると、鶴丸は彼女の手を引いてそれを止めた。
「じゃあ、何でぼんやりして何も答えないんだ?」
鶴丸は不思議そうに首を傾げる。
だが、レンにしてみたら幻に答えを返すようなもので、何だか一人鏡に向かって会話をしているような気分になってしまう。
レンは困惑するような表情を浮かべながら口を開いた。
「いや…、ここ夢の中でしょう?」
彼女がそう返すと、彼等は顔を見合わせて一様に胸を撫で下ろした。
そして、鶴丸は握っていたレンの手を両手で包み込む。