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「我が背子を」「風に散る」「この春は」

第1章 手紙


数日後、沖田の姿は武州の生家にあった。
「生家の片付けをして来い」
そう言った近藤の顔を思い浮かべ、沖田は微かに笑みを浮かべた。
恐らく土方のヤロー相手に、何と言うか練習でもしたのだろう。棒読みで言われた言葉はしかし、確かに優しかった。
「近藤さんも人が良すぎらぁ」
呟いた声は、ガランとした部屋に響き、沖田は小さく肩をすくめる。
家の中は綺麗に整頓されていて、今さら何かする必要は無さそうだが、一応片付けの名目で来ている手前、何かしなければならない気がして、手近な引き出しを開けたり閉めたりしてみた。
その度にミツバの簪やら、読みかけの本が出てくるから、何度も息の仕方が分からなくなる。
文机の引き出しを開けた時、書きかけの文があった。自分の名前が書かれているのを見て、思わず手に取った。
読んでも問題ないだろう。そう思った時。
「総悟君、帰って来てるの?」
縁側から声をかけられ、文を持ったまま出ると、隣に住むおばさんが立っていた。
「あぁ、どうも。こんにちは」
型通りに挨拶をすると、おばさんは皺の目立ってきた顔をさらにクシャクシャにした。
「ちょっと見ない間に、おっきくなったね」
「そうですかぃ。自分じゃあんま分かりやせんぜ」
おばさんは頭を小さく振ったかと思うと、涙をポロポロこぼした。
「ミツバちゃん、かわいそうだったね。けど総悟君、落ち込んでばっかじゃ、ミツバちゃんも悲しむからね、しっかりするんだよ」
「…はい」
ここ数日で、嫌と言うほど聞かされた言葉は、おばさんが言うと何故かすとんと胸に落ちた。
「あ、そうだ。総悟君が来たら渡そうと思ってた物があるんだ。ちょっと待っててよ」
おばさんはそう言うと、パタパタと走り去り、また走って戻って来た。
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