第1章 手紙
「これ、今年の春にミツバちゃんと採って、漬けておいたんだよ。総悟君、好きだって聞いたから」
そう言って渡された瓶を受け取ると、おばさんはそのまま沖田の手をさすった。
「ミツバちゃんねぇ、総悟君達が江戸に行った時、何時間もずうっと立ったまんまだったんどよ。姿なんてもう見えやしないのに。ずうっとだよ。総悟君の事、本当に可愛がってたからね」
「…そうですかぃ」
「だからさ、ミツバちゃんいなくなっちゃったけど、たまにこうやって武州へ帰っておいで。蕨もまた漬けておくしさ」
「…はい」
「あ、そうだ。総悟君、あんた橘の実を煮たのも好きだったよね」
突然声をあげたおばさんに、沖田は緋色の眼をパチクリさせて頷いた。
「ちょうどほら、たくさんなってるからさ、採ってくれたら、私が煮てやるよ」
おばさんが、指す方を見ると、確かに橘の小さな実はたわわに実っている。
「分かりやした。…おいザキ、いるのは分かってんでぃ、出て来い」
驚くおばさんと沖田の前に、何故か半泣きの山崎がそろそろと出て来た。
「お、沖田、隊長…何で」
「スビズビうるせぇんでぃ。おおかた、土方のヤローと近藤さんに、こっそり見張れとでも言われたんだろ。たっく、初めてのお使いじゃあるめぇし。だいたい、何でてめえが泣いてんでぃ」
「だっで…ぐずっ」
「おばさん、気にしないでくだせぇ。こいつ俺の部下なんで。ちょっと地味ですいやせんが、橘の実を採る事ぐれぇは出来やす。ほらザキ、さっさと採れ」
「…はい」
大人しく従い、橘の実を採る山崎と、その隣であれこれ言っているおばさんを見ながら、沖田は縁側に座り、文を開いた。