第43章 はじめまして
そう。私が女であると知る人物は 意外と少なくない。それを知った天は、些か不機嫌になってしまったようだ。
『えっと…もしかして、簡単にバラしちゃう私に怒っていらっしゃる…?』
「怒ってない」
『いやいや、明らかに怒ってるでしょ』
「…これは、ただの嫉妬。ボクより早く、キミの秘密を知った人間に対してのね」
左手を右肘へ。右手を左肘に当てがい、天は恥ずかしそうに私から視線を外した。
そんな彼を見て、言葉を聞いていると。愛おしい気持ちが込み上げてくる。
『ふ…ふふ、素直な天は可愛いなぁ』
「……可愛い。ね」
にこやかな笑顔の私に対し、彼は冷ややかな瞳だ。
向かいに座っていた天は、何故か私の隣へ移動した。相変わらず、笑顔など微塵も浮かべていない。
そんな冷たくも整った顔が、こちらへと迫って来る。
「聞かないの?」
『え…』
「気になってること、あるでしょ」
『……』
「怯えてるの?ボクから “ 決定的な言葉 ” を言われることに。
ふふ、可愛い ね」
『怯えてなんて、ない』
「そう。なら早く聞けば?
“ どうして私にキスをしたの? ” って」
そうだ。それが簡単に聞けなくなってしまったのは、天の言う通り…
彼から、決定打を貰うのが怖いからだ。
もしも天の答えが “ 好きだから ” ならば。
私は… 彼を、傷付けなければ いけないから。
『聞か…ない』
身を硬くする私と、ゆっくりと距離を詰める天。
「まぁ、そう言わないで。聞いてよ…エリ」
『っ、』
甘く凛とした声が、すぐ耳元から流れてきて。鼓膜をくすぐる。
思わず両手で耳を押さえて、その甘美な声をシャットアウトする。しかし、天はそんな私を良しとしない。強引に、強制的に誘惑的な声を私へ流し込む。
『〜〜〜っ』
「……はは。なんて、ね」
『え』
「教えて あげないよ」
天は、物悲しげに儚く微笑んだ。