第118章 Another Story
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『まず、左手に “可愛い” を載せて。そして右手には “格好良い” を載せます。それをはい!こうします』
私が左手の平と右手の平を激しく打ち合わせると、寝室には パン!という破裂音が響いた。
『はい。一体、この中には何が出来たでしょうか』
「どうしよう。すっごく分からない」
『答えは 天 です』
「パン!ってされてたけど、ボクは無事?」
顔を見合わせて、私達は小さく笑った。
布団の中で天に抱き締めていてもらうと、新しくベットなんて買わなくても良いのでは?という気持ちになる。
「…嬉しかった」
その声はあまりにか細く、もう少しで聞き逃してしまうところだった。
その突然の呟きの意味を、おそらく私は正しく理解出来ている。しかし “何が?” と一応尋ねた。
「キミが、さっき言ってくれたこと。
九条天がアイドルじゃなくても、ボクのことを変わらず愛してるって。言ってくれたでしょう?」
言いながら、天は優しく私の髪を撫で付ける。その指先からは、彼の幸福が伝わってくるようだった。
うっとりと目を細くしながら、私も彼に質問を投げ掛けてみることにする。
『私は、天がアイドルでもアイドルじゃなくても大好きだけど…
もし私が、アイドルを辞めて欲しいって言ったらどうする?』
淀みなく動いていた指先が、ぴくりと反応する。
「それって、キミを取るか仕事を取るか…みたいな意味?」
『まぁ、そうかな?』
「うーん…。それは、かなり揺れる」
『ふふ。嘘吐き』
「嘘じゃないのに」
『本当に?それは嬉しいなあ』
天は、ステージに立つ為に産まれてきたような人。そんな彼に、こうまで言わせてしまってはバチが当たるかもしれない。
「たしかに、アイドルを辞めるって選択を下すのは難しいけど…
でも、ボクがアイドルじゃない姿でいられるのは エリの前だけだから」
不意打ちで心を揺さぶられて、目を見開いた。そんな私を、彼は妖艶な瞳で見下ろす。
「どう?伝わったかな。キミへの愛は」
『〜〜っ、伝わってるよ!もうめちゃくちゃに!』
飛びつく様に抱き締めて、アイドルではない天にキスをした。