第43章 はじめまして
私がまだ、龍之介の事を苗字で呼んでいたころ。1度だけ彼に、性的な奉仕を働いたことがある。
それがトリガーとなり、龍之介は私を意識するようになってしまったのかもしれない。真意は闇の中なわけだが…
「そんな龍に、キミが女だってバレたとしたら?答えは…言わなくても分かるでしょ」
『ストッパーが無くなることにより、正々堂々と 私を、追う?』
「そうなるだろうね。問題なのは、龍が “ 真っ直ぐで分かりやすい性格 ” だってところ。
器用なボクと違って、仕事にも支障を来たしかねない」
私は想像した。
カメラの前で、私の姿ばかりを追う龍之介を。現場で、熱っぽい視線を私に向け続ける彼の姿を。
『ぜ、絶対に駄目だ…!』
「でしょ?まさかファンに、他の女性に恋をする十龍之介を見せるわけにいかないからね」
天の言う通りだ。
アイドルは、ファンに恋をしているという体でいなくてはならない。そして それを最も具現化出来ているのが、何を隠そう目の前の男だ。
心の中は自由だが、その心を包む側は ファンだけを愛していなくてはいけない。
それをやってのける器用さが、龍之介にはないのである。
「まぁでも、龍は本能的に キミが女であることに気付いてる節はあるけどね」
『そう、かな?』
「多分ね。まぁでも龍の場合、いつ開き直るか分からないのが怖いところだけど」
『開き直るとは?』
「俺はホモだったみたいだ!春人くん、好きだ!って。突然言い出してもおかしくない」
『あっはは!
って…ここ、笑っていいところだった?』
笑っちゃ駄目なとこ。
そう言う天の口元も、僅かに綻んでいた。