第6章 この子はオレとユキのお気に入りなの!
風が、吹いた気がした。
勿論そんな演出は無いし、機材も無い。
それでも確実に、私の隣を一陣の風が通り抜けたのだ。
圧倒的、王者の風格。
情感たっぷりに歌い上げる、圧倒的歌唱力。
それとは対照的に 軽やかなステップ。
観る者を確実に自分達のフィールドへ引き込む、彼らは…。
間違いなく本物だ。
「…ま、初めて生で見たらそうなるだろうな」
『………』
私は口元を手で覆い、この衝撃が外に漏れ出さないようにするので必死だった。
あれが、王者Re:vale。TRIGGERが天下を取るには、あの2人を越えなければいけない。
『…壁は高いですね』
「あれ?怖気付いた?」
少しだけ意地悪な天が、こちらを見上げる。
『はは。まさか』
「あ、春人くんが珍しく笑ってる。楽しそうでなによりだ」
龍之介も、私や天に続いて朗らかな笑みを浮かべた。
その後も、出演アイドルの撮りは滞りなく進んでいき、全ての撮影が終了した。
放送は数週間後である。
『私は少し席を外しますので、皆さんは着替えや帰り支度をしておいて下さい』
「どこ行くの」
不服そうな表情を浮かべ、天が言った。
『…Re:valeのお2人の楽屋です』
「あれ。挨拶はもう済んでたよね?また行くの?」
「それも、お前だけで?なんで」
楽が首をひねるが、そんなのは私が1番知りたい事である。
「百さんはもとかく 千さんが男性を “ ちゃん ” 呼びするのは珍しいよね。
よっぽど春人くんの事が気に入ったのかな」
「…はぁ。何勝手に目を付けられてるのさ」
『…そんな事を私に言われても』
何故かイラついている天に、私はぼやくように言うと。
なるべく早くしてよね。
と、また憎まれ口を返されるのであった。