第43章 はじめまして
私は、すっと立ち上がって 大きく伸びをする。そして、脱いだシークレットブーツ。テーブルへ置いたウィッグを見てから口を開く。
『ん…っ!でももう、春人とも今日でお別れかぁ。なんだか少し寂しいかも』
「え?」
『あ、お別れじゃないか。3人の前以外では、続けた方がいいよね』
「ちょっと待って。3人の前以外って…楽や龍にも、女だって打ち明けるってこと?」
『そりゃそうでしょ。天に言って、あの2人に話さない理由はないし』
「異議あり」
天が、某裁判ゲームのような決め台詞を言ったとき。2階から誰かが降りてくる気配がした。
私は、好都合だとばかりに その誰かを迎えに歩き出そうとする。しかし天が、それを良しとしなかった。
どん。と肩を押され、私はソファへ突き飛ばされる。そして、ガバっと強引にウィッグを被せられたのだ。
『ちょっ、何』
「黙って」
「ん…ふぁ、なんだ…話し声がすると思ったら、天と春人くんだったのか…。こんな時間にお喋りしてるの?仲良しだね。
あれ?春人くん、なんだか急に髪が伸びた?」
上からやって来たのは、龍之介であった。
ズレたウィッグに、多少の違和感を抱いたようだ。しかし、背丈がいつもと大幅に違うのはバレなかった。天が私を突き飛ばし、座り姿勢にさせたからだ。
『りゅ』
「龍こそ、こんな時間にどうしたの?」
「あぁ、なんだか喉が渇いちゃって。飲み過ぎたかなぁ、あはは」
私が、エリの声色で話そうとしたのを、天は強引に搔き消した。
どうやら、私が女であると龍之介に打ち明けるのを拒みたいらしい。
理由は分からないが、とりあえず天が納得するまでは 春人のままで対応しようと決めた。