第43章 はじめまして
『でもね天。私、まだ言ってない秘密があるの』
「まだ何かあるの?
気前がいいね。キミが、立て続けに自分の秘密を暴露するなんて」
『いいのいいの。もう今日はね、赤字覚悟の特価大放出』
「そんなふうに叩き売りされてる秘密は買いたくない」
げんなりする天には御構い無しで、私は言葉を続ける。
『びっくりしないで、落ち着いて聞いてね』
「これでも、キミの秘密はかなり知ってるからね。
虫が苦手、高所恐怖症、ピーマンが嫌い、それに性別詐称。もう何が来たって驚かないよ」
『私、実は Lio なの』
「…………」
さきほどまで、余裕を見せていた天の表情が固まる。瞬きを忘れた瞳が、こちらを捉えていた。
『あれ…。その反応、やっぱりこれには気付いてなかったんだ。よっしゃ!』
「いや…、え?Lioって、あのLio?消えたアイドルの?」
『うん』
「…そう」
短くそれだけ言うと、天は深刻そうな顔をして俯いてしまった。
思っていた反応を返さなかった彼に、私は問い掛ける。
『さすが、九条天は違うね。驚かないんだ』
「いや、これでも驚いてる方。それより、気が付かなかった自分が信じられなくて。
気付くタイミングは、いくつもあった」
眉間に皺を寄せ、ローテブルに両肘を突く。
「無茶な練習を繰り返すボクに、キミがした例え話は…やっぱりエリ自身の話だった。
それに、陸の話に過剰な反応を見せたのは 自分の姿と重ね合わせたから。
あと決定的なのは、ZeppOsaka支配人とキミの病院で交わした会話だ。あれは何かの言葉遊びなんかじゃなかった。彼は、真実を見抜いていたんだね」
【3章、21章、24章】
『うん。全部、天の言った通り』
今から思えば、私はこれだけの情報を天に与えていたのだ。
先入観とは、やはり恐ろしい。一度 私の事を男だと思い込んでしまえば、鋭い彼の目ですら眩ませてしまうのだから。