第42章 そんなの、私に分かりませんよ
カッシャカッシャと、シェイカーの中で氷がぶつかる音が響く。聞き慣れていなければ、意外と大きな音だと感じる人がほとんどだと思う。
「っつーか、あんたはシェイカーまで振れるのかよ。あ、でも確か龍も振れたよな」
「少しだけね。でも、ほとんど見様見真似だからなぁ」
「お酒を飲めないボクには、どうしてわざわざシェイカーを使う必要があるのか分からないけどね」
「んなの、カッケーからに決まってんじゃん」
「そ、そんな理由じゃないと思うよ?」
『逢坂さんの言う通りですよ。液体を冷やす、攪拌するのにはシェイカーが最も適しているんです』
混ざり合った物をグラスへ注ぎ、ソーダでフルアップ。そして、天の前へ差し出した。
『シャーリーテンプルです』
「ありがとう」
飾り切りしたレモンピールをあしらえば、ノンアルコールカクテルも、それらしく見える。
「春人。これにもカクテル言葉はあるのか?」
『ありますよ。シャーリーテンプルのカクテル言葉は “ 用心深い ” です』
「はは!なんだか天らしいカクテルだね!」
環のミルクセーキは、さきほどコテージの中のミキサーを使い完成している。
後は、大人組4人のカクテルを作れば乾杯出来る。
『もし苦手な人がいなければ、ジントニックでいいですか?』
「僕は大丈夫です」
「俺も好きだよ」
「ああ。問題ないぜ」
ジントニックは、シェイカーも使わず手軽に作れて、多くの人に愛されるポピュラーなカクテルだ。
しかし、そのカクテル言葉はあまり知られてはいない。
「よし!じゃあ全員、グラス持ったな!」
「はい!」
「早速、乾杯しよう!」
「おー!」
「で?プロデューサー。あるんでしょ、これにも。そのカクテル言葉ってやつ」
『…ジントニックのカクテル言葉は “ 強い意志、いつも希望を捨てない貴方へ ” 』
私は、壮五に目配せをしてそれを告げた。
いつか貴方が作った曲を、IDOLiSH7が歌う日が来ますよう。
その日が来るまで どうか。貴方が、強い意志と希望を持ち続けられますように。
そんな願いを込めたカクテルで、私達は6人で乾杯をするのだった。