第42章 そんなの、私に分かりませんよ
私は、壮五のだらしなく下がった顎を右手長指で押し上げた。すると、開いていた口は閉じられた。
『口を開けっぱなしにしていると、虫が入りますよ』
「あ…そ、そうですね。ありがとうございます」
とほほ、と壮五は俯きながら体を正面に戻した。私も、彼と同じ様にして前を向く。
4人はついに、打ち上げ花火に手を出し始めたらしい。筒を手に持ち、どれから火を点けるか わーわーと楽しそうである。
『…冷たい言い方をしてしまったかも、しれませんが。だって、私には本当に分からないんですよ。
貴方が、どんな音が好きなのかも。過去、どれくらい音楽に触れて来たのかも。音選びのセンスも、どんな作曲家を尊敬しているのかも。
どれくらい、本気で曲を作りたいのかも』
「そうですよね。ごめんなさい、つい…口走ってしまって。おそらくですが、誰かに 大丈夫って 言って欲しかったんだと思います」
『貴方は…
IDOLiSH7で、貴方が作った曲を歌いたいんですか?』
「……はい!」
壮五は しっかりと頷いて、大きく頷いた。
強い信念の宿った瞳だ。こんな顔を見せられては、微力だとは分かっていても、応援したくなってしまうではないか。
『逢坂さん。私には “ 大丈夫だ ” なんて、無責任な事は言えません。
ですが、私は』
「おいっ!やめろって四葉!さすがに待て!!」
「待たねぇ!!さきに仕掛けて来たのは、がっくんだかんな!」
「お、落ち着いて!環くん!ネズミ花火が君の所へ行ってしまったのは事故だよ!」
「まぁ 火を点けて、ネズミ花火を放ったのは楽だけどね」
「天 お前!簡単に俺を売るな!後で覚えてろよ!」
私が壮五に伝えようとしていた言葉が掻き消されたのは、まぁ仕方がないとして。
いまの環は見過ごせない。何故なら…楽を追い回す彼の手には、打ち上げ花火とライターが握られていたから。