第42章 そんなの、私に分かりませんよ
環が、線香花火は退屈だと言って 仕掛け花火へ向かうのに、そう時間はかからなかった。
今は、楽達と共にネズミ花火に興じている。
再び壮五と2人きりになった途端に、彼は切り出した。
「実は、以前から中崎さんに聞いてみたいことがあったんです」
『なんでしょう』
「TRIGGERさんの曲は、あなたが作ってるんですよね」
『まぁ、そうですね』
TRIGGERへ楽曲を提供している人物は謎の作曲家 “ H ” である。そして、その正体は言わずもがな私だ。
IDOLiSH7をはじめ 小鳥遊プロの人間には、それを知られてしまっている。
「本当なんだ…!凄いなぁ…中崎さんは」
『いえ、べつに』
「えっと、そういう技術って、どこで勉強されたんですか?」
『高校も、まぁ音楽関係の勉強が出来る場所を選びましたし、先生と呼べる人も、いなくはなかったです。教えてくれたのはほんの少しでしたけど。あとはほとんど独学です』
「へぇ……!そ、それじゃあ…どのくらいの期間勉強されたんですか?」
『……』
彼は、どういう意図を持って質問しているのだろうか。なかなか核心に触れて来ない、回りくどい質問のような気がしてならなかった。
本当に繰り出したい質問を、先延ばしにしている感じだ。
『それで?貴方が本当に聞きたい事はなんなんです?』
「……すみません。無駄に長い前置きを、してしまって」
『べつに良いんですけど、そんなに言い出しにくい内容なんですか?』
「い、いえ!今から言います!」
彼は覚悟を決めたふうに、体の前で両手をぐっと握った。そして、私を真っ直ぐに見つめて言った。
「…僕にも、出来ると思いますか!?
世に出しても恥ずかしくないような曲が、僕にも作れると思いますか!?」
『え…そんなの、私に分かりませんよ』
私が正直に答えると、壮五は口を半開きにして固まってしまった。