第42章 そんなの、私に分かりませんよ
「すみません…取り乱しました。
こんなふうに言っておいて何ですが、最近はそんな 彼特有の危うさも 随分と消えたんです」
『それは良かった』
「…ずっと、貴方にお礼を言おうと思っていました」
『え?』
「環くんが変わったのは、あなたと再会してからなんです。少し優しくなって、徐々に僕の話にも耳を傾けてくれるようになりました。
あなたは彼にとって、精神安定剤なんじゃないかなって思うんです。
だから…ありがとうございます」
壮五の言葉に、私はすぐに首を横に振った。
『逢坂さん。それは違いますね』
「え、違い…ますか」
『はい。彼が変わったのは間違いなく、貴方と…IDOLiSH7の影響です。
彼の境遇は、彼の人格を歪めたとしても不自然でないくらい、劣悪な物でした。しかし、そうならなかったのは…皆さんのおかげです。皆さんの、明るさ。真っ直ぐさ。優しさに触れて日々を生きているからに他なりません。
…その…。
私にとって、四葉さんは大切な人。そんな彼の側に、貴方達のような人がいてくれて…本当に良かった。
こちらこそ、感謝します。ありがとうございます』
顔を前へ向けて、環の姿を視界に入れる。
彼は、心底楽しそうな笑顔を見せていた。
以前も思ったが、環がIDOLiSH7に入ってくれて良かった。逢坂壮五という優しい人間に出会えて良かった。
「え、いや…そんな」
『感謝の気持ちとして、良い事を教えて差し上げましょう』
「え?良い事?わぁ、なんでしょうか」
私は顔を輝かせた壮五に、線香花火を握らせた。ちなみに、1本ではない。3本だ。
それを見た彼は、引きつった笑顔に変わった。
「…あの、中崎さん?これは、一体…。それに、良い事と言うのは」
『線香花火の火玉が、落ちない方法です。
逢坂さん。
どれだけ火玉が弾けようとも、暴れようとも。紐を握る貴方がしっかりしていれば…
線香花火は、必ず最後で輝いてくれますよ』
「……中崎さん…
って、なんだか良い顔で言ってますけど!さすがに3本はやり過ぎじゃないですか!?まさか一度に火を点けたりしませんよね!」
私は、無言のままライターを着火。そして、3本の線香花火に点火した。